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心理社会療法とは
筆者が精神科医になった50年ほど前には,schizophreniaの治療は電撃療法とインスリンショック療法などの身体的治療がほとんどであった。当時は精神科病院も少なかったが,進んだ公立病院では先覚者が作業療法に取り組んだことが伝えられていた。例えば,都立松沢病院の加藤晋佐二郎,福岡県立筑紫保養院(現,県立太宰府病院)の岩田太郎などである。そのうち精神科病院開設ラッシュが起きたが,作業療法は治療の名で私役に使うという悪用が生じてしまった。そのために厳しい批判にさらされ,作業療法が適切に普及するには大変な努力が必要だった。
“心理社会的”という言葉は今日,広く世界中で使われているが,もともとは,アメリカのA. Meyer(1866~1950)の精神生物学に由来する。生物学的要因のみならず心理社会的要因の重要性をも強調したのである。そのため,個々の患者の生活史を十分に明らかにし,病気の表出と経過に関係する重要な人生経験を理解することを必要とした。この精神生物学の考えはKraepelinを頂点とするドイツ精神医学の精神病観とは性質を異にするものであった。Meyerの生まれ育ったスイス文化のヒューマニズム尊重の影響が指摘される。しかし,Meyerの精神疾患の全人間的理解がそのままアメリカの精神医学の発達となったわけではない。第2次世界大戦後の精神分析の全盛期は,一般市民に精神医学を近づけたが,schizophreniaを患った人びとは巨大な精神科病院に収容され,後には脱施設化で十分な医療も受けられないという不幸を体験した。この時代はbrainless psychiatryと呼ばれるに至った。1980年のDSM-Ⅲに象徴されるように精神医学の再医学化がこれにとって代わった。しかし,この客観主義,証拠主義も現在の状態(state)を重視するもので,Meyerの強調した生活史,体験,そこから生じる患者の傾向(trait)と主観を軽視するものであった。後にmindless psychiatryと呼ばれた。しかしそのような中にあって,生物学的精神医学は発達し,新しい型の抗精神病薬が開発され,従来型の抗精神病薬では効果の乏しい陰性症状や認知障害に効き,錐体外路症状などの副作用も少ないことが実証された。
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