Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
1967年南アフリカ共和国のバーナードによって開始された心臓移植が,1980年代に入り,日本を除く欧米・アジアの諸国でルーチンの重症心不全の外科治療として定着してきたのは今更述べるまでもない.アメリカでは人口2.5億に対して年間2,500例,すなわち人口100万人あたり10例の心臓移植が行われている.ヨーロッパにおいては,表1に示したように,1999年の集計では,オランダ,ベルギー,ドイツで構成されるユーロトランスプラントでは人口1.1億に対して年間705例,すなわち人口100万人あたり6.2例の心臓移植が行われた.イギリスを中心としたUK—トランスプラントでは人口100万人あたり3.4例,フランスでは同5.4例,デンマーク,スウェーデン,ノルウェイなどのスカンジア—トランスプラントでは同4.5例,スペインでは同8.4例となっている.そして,実際には移植数の数倍のドナーが必要という現実から,各国それぞれが様々な努力を惜しまず,ドナーの確保に懸命になっている.例えばドイツでは,日本と時期を同じくして1997年11月より臓器移植法が制定されたが,そのなかに,全国の病院に対して,もし脳死者が出た場合はドナーネットワークに登録の義務を課す,という項目を盛り込んでいる.それにより,救急医療側の臓器移植に関する認識の向上,さらにはそれが救急医療全体の質的向上へと結びつくようになっている.
日本の移植法が成立して3年目を迎えたが,それ以降に出たドナーは4名に限られている.当初ドナーカードさえ普及すれば年間400〜500例のドナーが出るという公的機関からの楽観的な予測が新聞,テレビなどのメディアを通して流れていた.しかし,私はその時せいぜい年間2〜3例のドナーしか現れないだろうと,日本で開催された学会で何回となく悲観的発言を繰り返してきた.それはなぜか.さらには,それでは日本に心臓移植が定着するには何が必要なのか.これらの疑問に対して,ドイツで実際に1,000例を越える心臓移植を手がけた経験ならびに欧米諸国での心臓移植医療の知見を通して,国際的視野からみた日本の心臓移植,そして心臓移植が定着されるべき日本の心臓外科医療には何が欠けているのか,ひいてはそれを取りまく日本の医療行政の問題まで掘り下げ,私なりにこの問題を考察していきたい.
Copyright © 2000, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.