巻頭言
もう一つのBilingual—呼吸器における母国語と共通語
貫和 敏博
1
1東北大学加齢医学研究所呼吸器腫瘍研究分野
pp.1129
発行日 1994年12月15日
Published Date 1994/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404900964
- 有料閲覧
- 文献概要
私は呼吸器病学を学んで15年余になる.しかし,呼吸器の世界に身を置いていつも自身の研究領域の異端性を感じている.それは自分が基礎的思考訓練を受けた生化学領域と,現在の呼吸器病学の思考過程の格差を感じているのだろう.生化学的思考過程の基礎には物質の特異的測定と,単一精製という化学の基礎思考が引き継がれ,実際には目に見えない分子の現象を常にimaginationで補いながら,次のステップを模索する過程である.一方,呼吸器病学の基礎には形態と生理がある.形態は画像情報を拠り所にする世界であり,視覚情報は得心できるが,imaginationはそこで止まりがちである.生理学の世界は混沌とした病態からoutputされ抽象化された数式の世界で美しい.この世界から見れば,混沌としたなかで「ものとり」に長時間をつぶす世界は低級学問の世界で胡散臭い.私が入った呼吸器の世界はこんな風景に見えた.実際,私の言うことはいつも「分からない」と言われ,まるで異国に暮すかのようであった.
これはなにも日本に限ったことではない.4年間の留学中は,むしろ生化学が共通言語の世界であった.しかしATS(American Thoracic Soci-ety)の学会に出席すると違うものを感じた.AFCR(American Federation for ClinicalResearch)はもう少し共通理解が得られるがATSは別である.
Copyright © 1994, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.