呼と循ゼミナール
呼吸生理研究と臨床(10)—上部気道のair conditioning
太田 保世
1
1東海大学医学部臨床生理学
pp.392
発行日 1977年5月15日
Published Date 1977/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404203045
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天蓋の故障で,氷点下30℃の大気中を時速400kmでおよそ2時間の飛行を強いられた戦闘機乗員の症例報告でも,顔面の凍傷などを除けば,呼吸器系傷害は喉頭・気管炎のみで,それものちに恢復している。逆に115℃にも及ぶ空気を吸入する実験も,さほどの障害もなく遂行されたという。実験的に吸気温をさまざまに変化させ,鼻孔から気管支にいたる各部で温度を測定すると,室温とかなり異なる吸気温でも,気管分岐部付近の吸気温はほぼ深部温(体温)に等しい。このように上部気道は大きな能力をもつair conditionerであることが知られている。通常の呼吸のように,室温の吸気は鼻腔から喉頭付近にいたる間にほぼ体温に等しくなり,かつ水蒸気で100%飽和されて肺胞へ達する。吸気に速やかに熱が伝達される機序はturbulent convectionである。この時気道の粘膜は,吸気への熱伝達と水分の蒸発とによって冷却される。この蒸発による熱は水蒸気としてlatentの形(潜熱)で,吸気の加温には関係しないといえる。呼気時には,深部温の呼気が冷却された粘膜に熱を伝達し,それにともない水蒸気の凝縮がおき,潜熱としての熱エネルギーも粘膜に伝達される。
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