巻頭言
生体観測と技術
須田 勇
1
1神戸大学医学部生理学
pp.299-303
発行日 1970年4月15日
Published Date 1970/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202134
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
われわれが医学に対面したときどのような態度で研究をすすめてゆくかについての考え方を述べる。現状では非常に精細に対象の計測ができるが,計測の結果何をえ,また,その目的は何であるか,また,どのような目的を設定すればその計測に意味が生じてくるか,などという点については十分に考えられているとはいえない。従来からの生体機能の観察法にしても内容的に次のように3大別できるが,研究者の基盤となる立場は常に明確にしながら研究を行なってゆく必要がある。
第1の立場は形態学に準拠して形態と機能の対応を求める最も原始的な方法である。これは,まず生体を形態を拠りどころにして分類し,それぞれの機能を追求してゆく。この設定にわれわれが不自然さを感じないのは,従来の医学教育が解剖学から始まっていることに原因がある。この立場に立つと,対象は有限のもの,すなわち,名前を羅列してゆけば尽るものである。したがって,機能の追求にも形態が基準となり,たとえば迷走神経の機能は胃に対してはなに,腸に対してはなに,という考え方に終る。これはわれわれの中に定着している大変危険な状態である。この形態——機能——その異常というような積み上げ方で研究の限りない発展が期待できるかどうかには大変疑問がある。形態とは形象による分別であるから,人間の特性を利用した点では優れているが,形態と機能の対応関係を一層精細に追求していって結果的に何を知ることができるかということは十分考えてみる必要がある。機能は形や物と結びつけねば考えられぬ概念であろうか。
Copyright © 1970, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.