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先天性心疾患の心電図を判読する時,一般にはやはり右肥大があるとか,両室肥大があるとか,まず肥大の有無を考え,その上にたって診断を考えるというやり方が多いと思う。成書をみても,PやTは高く尖ったとか,平低とか,あるいは陰性等,形の表現を用いているが,QRS波に関しては,脚ブロックを除いてほとんどが肥大の有無を述べるにすぎず,qR型とかRS型とか,疾患に対する形の特異性を強調しているものは少ない。非常に複雑であり,記載するのが難かしく,また疾患によっては心室中隔欠損等は種々な形をとり,一概にいい切れない点があるからだと思う。しかしよく考えてみると,先天性心疾患の場合,発生から正常の心臓とは異なり,極端にいえば魚や蛙の心臓に近いこともあり,これを正常心を基礎とした肥大という考え方で説明しようとする所に無理があると思う。筆者は先天性心疾患の診断に当り,心電図を読む時,右が強い,左が強いという考えは当然もつが,細かい肥大基準はあまり考えず,これはどの疾患の形かなと考えるようにしている。同じ左肥大でも動脈管開存と僧帽弁閉鎖不全ではかなり異なった形をしているし,心室中隔欠損とでも,SないしST-Tの部分の形が多少ニュアンスが異なり,心電図だけでもおよその診断がつくことが多い。日常の臨床には肥大の有無より,形,パターンの方がより重要だといいたい。単に病型の診断だけでなく,疾患によっては重症かどうか,手術の適応にも大いに参考になる。
ここで改めてパターンを形成する因子を考えてみると,これには三つのものがあると思う。まず第一に,奇形そのものというか,解剖学的要因である。例えていえば,二腔心は正常心とは全く別の心電図を示す筈であり,細かい点でいえば,修正大血管転位では右側胸部誘導で通常左側に見られる形があるのは当然である。夫々の疾患に夫々のパターンが存在する。第二の因子が血行動態,血力力学的な面である。Cabrera以来,この点は大分強調されており,個々の先天性心疾患の血行動態を理解していれば自ら診断に結びつく。心房中隔欠損の心電図はこの点を最もよく表わしている。ただこの血行動態による形の変化は,次に述べる年齢的変化とも関連し,疾患の重症度とも関連して,年齢により,また状態により動いていくものである。最後の第三は年齢的要因である。発育により新生児期より成人になるまで,正常の場合にも次第に形は変っていく。これに対して第一,第二の因子がどれだけ影響を受けるかということも一つの大切な所見である。先天性心疾患の心電図を判読する時,この三つの要素を考えた上でその形をよくみれば,どの疾患のどの程度ということもよりよく理解される筈である。心電図学そのものを理解する過程において肥大心電図の概念も確かに必要であり,それがわかってこそパターンも理解できるので,最初から形だけを覚えようとしても脳波と同様に中々取りつきにくいと思う。しかし先天性心疾患の心電図の判読には単なる肥大の有無でなく,どういう形であるかということを考え,それが診断に結びつくべきだと思う。電子計算機が素晴しく発達してきた今日,この複雑なパターンの組合わせもよく記憶してくれる筈であり,先天性心疾患の診断にこの心電図の電子計算機による判読がうんと活用されることは確かである。その日を楽しみにして巻頭言とする。
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