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いうまでもなくfeed backには,positiveとnegativeとがある。positive feed backは,何かが起こると,それを大げさにする傾向をもつ。出血の結果,起こりうる潜在性のpositive feed back mechanismを例にとると,生じる低血圧をいちじるしくする。こうした悪の輪廻が,死に至らしめることもある。かようなときには,血圧,ならびに,化学受容性反射や,組織液の再吸収・内因性の脈管収縮・カテコラミンやワゾプレッシンの分泌・腎の水分保存能などが,失血による低血圧時に働いて,回復させようとするのであるが,かような拮抗が起こらない。posit—ive feed back mechanismそれ自体が,悪の輪廻にみちびくか,どうかは,そのmechanismの"gain"によるとされる。このさい,gainとは,出発時の変化の大きさにたいするmechan—ismで生じる2次的変化の大きさの比率であると定義されよう。gainが1より大きければ,悪の輪廻を生じ,1より小ならば,起こらない。毎日起こるstressにたいするstrainのgainは小さいものにちがいない。positive feed backmechanismが0.5のgainをもつなら,mecha—nismが平均動脈圧をいちじるしく変化させても,かならずしも,死には至らない。たとえば,平均動脈圧が何らかの理由で,10mmHgさがったとする。このとき,0.5のgainは,positive feed back mechanismを介して,第2段には,−5mmHgの附加的な血圧低下をきたすだけであろう。さらに低下する血圧は,−2.5mgとなる。この過程は,平衡値(または出発値)に漸近線的に回復させる。大切なpositive feed back mechanismとして,アチドージス・不適当な脳流血・血液凝固の変化・網内系の機能低下などのほかに,心不全をあげることができる。
出血によるショックの進展にたいして,心不全がどのような役をするか,問題の多いところではある。末期なら,どの人にも,心失調皆みるといえようが,血圧低下の早い時期に相対的な心不全がもつ重要性については,諸家の意見がまちまちである。動物実験では,平均静脈圧は横軸に,心送血量を縦軸にとる座標では,心室機能曲線(Gu—yton)が右下方へ移動し,これがpositive feed backのgainが1より大きければ,進行的に,移動がいちじるしくなり,このさい,心筋の収縮性も進行的に低下するといえるかもしれない(Crowell, J. W., Guyton, A. C.: Amer. J.Physiol., 203:248,1962)。しかし,これで心性ショックや,低送血量性心不全の結果,生じる低血圧,ないし,死の転帰までを説明できると考えるのは,単純すぎる。低血圧は,前述した拮抗を動員しようとする一方,心冠血流を減らし,心筋の働きが害されれば,心送血量は,それだけでも減りうるし,これが,さらに動脈圧をさげることになろう。さらに,組織内の血流の減りは,血管拡張性代謝物を蓄積させ,これが末梢脈管域の抵抗を減らすことになれば,動脈圧の低下は,さらに,ひどくなる。
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