巻頭言
循環器疾患の社会性
高安 正夫
1
1京都大学医学部内科
pp.935
発行日 1965年12月15日
Published Date 1965/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201523
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我が国における統計による死亡の順位はここ数年殆んど変わっていない。脳血管障害によるものか第1位,心臓死が第3位で,循環器疾患が第2位の悪性新生物をはるかに抜いているのである。戦後すでに20年を経過し,我が国における平均寿命も格段に進んで先進国並みに追いついてきたがその結果がこの統計を形造っているわけである。以上のことはいまさらいうまでもないことであったが私のいいたいことはこの死亡の原因として遙かに数の少ない悪性新生物ことに癌は我が国の知識人を含めた一般の人々に非常におそれられ,かつ関心が持たれ,したがってこれに対する研究の進歩に大いに期待をかけてそのバックアップが行なわれているのに,それ以上の死亡原因である心臓および脈管を中心とした循環器疾患に対してそれほど理解がよせられていないのがむしろ不思議に思えるのである。しかもこれらの疾患の多くはやはり癌と同様壮年期以降に多くは悪い結果を現わすものであり,働きざかりの人あるいは大成した人達の活動力を奪い,生命をおびやかすのであるからもっと一般の人がこれを認識すべきであると思うのである。癌においてはまだまだ現段階では早期発見,早期治療より手がないようなことではあるが,これに犯される人の数は循環器疾患に比べればずっと少なく,いいかえれば各人がおかされる可能性は遙かに少ないわけである。
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