- 有料閲覧
- 文献概要
地域医療の崩壊が社会的な大きな問題に顕在化して久しい感があるが,その原因として2003年に開始された新研修制度が大きな影響を与えていることは間違いない.すなわち,それ以前は,地域の医療施設へは大学の医局から医師が派遣され,地域医療を支えていたが,新研修制度が始まってからは,医学部の卒業生が大学に残らず近視眼的に勤務条件の良い大都市の医療施設に就職する傾向が強くなり,大学の医局の人手不足が進んだ.その結果,大学の医局から地域の病院に医師を送ることができなくなり,地域医療の過疎化と医師の大都市への集中が進行した.すると,残された地域中核病院の勤務医も過労となり離職し,ますます地域格差が大きくなることになった.このように,以前の大学の医局の封建的な人員派遣体制が望ましいとは言えないかもしれないが,新研修制度はこの体制を弱体化したものの,それに代わるものは考えられていなかった.
医師数不足とは言われるものの.単に医学部を新設したり医学部の定員を増やしたりしても,大都市への集中が進むだけで,地域医療への貢献は少ないと思われる.医師数の不足以上に,偏在が進んでいることが問題である.不用意な計画により医師数を増やすことは,医療費の増加に拍車をかけることにもなる.また,医学部の定員を増やしたとしても,入学者が卒業して医師になるのは6年後であり,研修,修練を経て地域医療に能うのは10年後である.加えて,わが国では少子・高齢化の進行とともに人口が減少することが確実であり,必要とされる医療の内容も変貌することが予想される.従って,医学部の定員を変更するにあたっては,10~20年後の医療の状況を想定して慎重に考えるべきである.然るに行政の担当は3~5年で代わるのが常であり,医師が参画していても地域医療の現場の経験は乏しいことが多い.
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.