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免疫療法は,癌に対して優れた選択毒性をもたらす方策として古くから試みられてきた.これまでは細胞傷害性T細胞(CTL)が認識するヒト腫瘍抗原がはっきりしなかったが,1990年代に入ると,遺伝子工学的手法を用いてヒト癌の腫瘍特異的抗原の一部が同定され始めた.まずBoonらのグループがメラノーマ患者のCTLが認識するメラノーマ抗原ペプチドMAGEの遺伝子クローニングに成功した.この報告によって,T細胞が認識する分子は蛋白分子全体ではなくて,その一部の数個から数十個のアミノ酸からなるペプチドと主要組織適合抗原複合体(MHC)とが結合した複合体であると立証された.その後,癌患者の血液を用いて血中に存在する抗体が認識するペプチドをスクリーニングするという大変簡便な方法(SEREX法)が開発され,数々のヒト癌関連抗原が同定されつつある.そのなかで,癌特異性の高い抗原ペプチドが選別され,それらを用いた癌ワクチン療法が種々の施設において開始され始めた.
私たちの教室では,ウイルムス腫瘍から単離された癌遺伝子WT1 geneが白血病のみならず肺癌や乳癌などの固形癌にも広く発現されていることを報告してきた.この遺伝子産物は449個のアミノ酸からなるZinc finger transcription factor で細胞核内に存在しているが,最近の研究ではこの遺伝子産物の一部がHLAと結合して細胞表面に提示されており,これが免疫源となってヒトにおいてもCTLを誘導しうることが判明した.すなわち,HLAがA2.1(A*0201)の場合はWT1蛋白アミノ酸の126番から134番までのRMFPNAPYLというペプチドが,A24(A*2402)の場合は235番から243番までのCMTWNQMNLというペプチドがそれぞれ結合して細胞表面に存在し,これらが同じHLAを持つCTLによって認識され破壊されるというわけである.
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