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救急医療体制とは外傷,疾病を問わず急変した全ての傷病者に,迅速に最適な医療を提供するための体制と定義される.わが国における救急医療体制の整備は1963年に増加する交通事故患者に対応するために患者搬送が市町村の消防機関の業務として義務付けされたことに始まる.1964年厚生省より「救急病院等を定める省令」の制定がなされ,全国的な救急診療体制の整備が行われた.ここに外科系,特に脳神経外科領域を中心にした救急病院,救急診療所が都道府県知事より告示されることになった.1970年以降交通事故による負傷者や死亡者が減少,一方で内科系疾患を中心とした急病や重症疾患,小児科,眼科,耳鼻科などの対応が極めて不十分であり,救急医療システムの再整備が叫ばれた.その結果,1977年度より初期,2次,3次の救急医療体制の体系的整備が開始された.初期救急医療施設は比較的軽症な救急患者の診療を担当,2次救急医療施設は重篤ではないが手術,入院を要する患者の治療,3次救急医療施設は複数の診療科を要する重症,重篤な救急患者に対して高度な医療を総合的に提供しうる医療施設で,重篤な救急患者に対し原則として常に必ず受け入れる診療体制をとることが要求される医療施設である.さらに各都道府県に原則として1カ所高度救命救急センターが,従来の救命救急センターに急性中毒,広範囲熱傷,指趾切断等の特殊疾病患者に対する必要な診療を24時間常に行える施設として位置付けされた.
救急医療の充実のためには同時に病院前救護の整備が不可欠であり,病院前救護を担う救急隊員の充足とともに質の向上の進歩も目覚ましい.1992年7月より救急救命士が心肺機能停止(CPA)患者に限定して医師の指示下に特定行為の実施が可能となった.さらなる病院前救護の充実を目指して,現在各地域単位でのメジカルコントロール(MC)体制が整備されつつある.このMC体制は直接MC(オンラインMC)と間接MC(オフラインMC)の2つに分けられる.オンラインMCは電話回線などにより救急救命士を含む救急隊員に対して直接的そして具体的に指示,指導,助言を行うものである.オフラインMCは救急活動要領,病院前救護プロトコールに基づく指針,救急救命士養成過程における病院研修,救急救命士就業前病院研修,生涯研修としての病院研修,さらに救急隊員の現場活動に対する事後検証などである.救急救命士の特定行為についてはMC体制の整備のもとでの心室細動に対する指示なし除細動,さらに2004年7月からは所定の研修が履修されれば気管挿管も可能となる.このように病院前救護は確実に歩みを進めている.
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