巻頭言
β遮断薬,今は昔
嶽山 陽一
1
1昭和大学藤が丘病院・循環器内科
pp.5
発行日 2003年1月1日
Published Date 2003/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404100611
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常識のウソあるいは常識の非常識という言葉がある.「常識」というのは,心理学的には繰り返される情報の反復刺激によって忘却し得なくなった知識のことをいうと今から30年以上も前の教養過程で教わった.一応は衆目のpositiveな評価が定まった事象を指して用いられ,科学的な根拠がある場合もそうでない場合もある.しかし,この常識が時に180度ひっくり返ることがある.
昨年のノーベル賞に日本人2人が同時に受賞して,大いに世の中を沸かせたが,この世紀の大発見・大発明に至る途中経過で,常軌を逸脱してあるいは大失敗の果てに,半ば偶然に遭遇する事象から生まれる快挙は枚挙に暇がない.こういった失敗や予想外の結果に着目して大きな獲物を捕える能力を「セレンディピティー」という.しかし,このセレンディピティーも,Louis Pasteurがいみじくも言い放ったように,「偶然は準備のない人を助けない」という名言に帰納する.常日頃から弛まぬ努力なしには如何に偶然(機会;chance)が巡って来ようとも気付かないまま通り過ぎてしまう.白川英樹博士の伝導性プラスチックの合成然り,田中耕一氏も自ら述懐しているように,まさに瓢箪から駒であったという蛋白の質量分析法然りである.
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