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はじめに
薬剤溶出性ステント(Drug-ElutingStent;DES)は,慢性期のリコイルを防ぐというステント自体の特性を活かしつつ,再狭窄を防ぐ薬剤を局所に放出することでステント内再狭窄を抑制するという概念のもと開発されている1).つまりDESはプラットフォームとしてのステント・薬剤・薬剤を含むキャリアーマトリックスという3つのコンポーネントから成る.
ステントに塗布する薬剤としては,抗炎症作用をもつもの,血管平滑筋細胞の増殖を抑制するもの,遊走を抑制するもの,内皮化を促進することによって再狭窄を予防するもの,などの主に4つのアプローチから検討がなされた.各薬剤の研究・治験が進むにつれ,全ての薬剤が理論どおりDESとして有効というわけではないことも判明してきた.例えば,statin,mycophenolic acid,actinomycin-D,batimastatなどは,その有用性が動物実験の段階あるいは臨床治験で証明されなかったため途中で開発中止となっている.
これら数々の候補薬剤のなかで有用性がlarge clinical randomized trialでも証明され欧米で認可され臨床使用可能となったのがsirolimus-eluting stentとpaclitaxel-eluting stentである.Sirolimusは,イースター島の土壌で発見されたマクロライド系の抗生物質で,現在では腎移植後の免疫抑制剤として使用されている.再狭窄予防としてのメカニズムは,1)炎症細胞浸潤の抑制,2)cell cycle を阻害することによる平滑筋細胞の増殖抑制,3)平滑筋細胞の遊走の抑制である.一方,paclitaxelは乳癌・肺癌・卵巣癌などの治療に用いられる抗癌剤の一つで我が国でも認可されている.再狭窄予防としてのメカニズムとしては,低用量で微小管を安定化することにより細胞分裂の際に必要な微小管の脱重合を阻害し,結果として細胞増殖を抑制することが挙げられる.両DESのrandomized trialにおける成績を図1,2に示したが,どのtrialでも一様に従来のbare metal stentと比較して有意に再狭窄を抑えている.最初のDESとしてsirolimus-eluting stent(CypherTM)が日本でも2004年3月に,欧州より遅れること2年余りで,ようやく厚生労働省に承認され8月に保険償還された.いよいよ日本もDES時代に入ったわけだが,本稿では急性冠症候群(ACS)におけるDESの治療成績をまとめたうえで,今後の展望をさぐっていきたい.
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