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血栓症は炎症性大腸疾患(IBD)の合併症として重要で,IBDの1.3から6.4%,剖検例では39%にみられ,致死率も25%と高い.この合併症はIBDの活動性や他の促進因子によって危険性が増すとされている.一方,活動期のIBDに栓球増多やフィブリノゲン値の上昇,アンチトロンビンⅢ値の低下が起こることはよく知られており,急性期反応物質(acute-phase reactants)とされているが,通常,これらの凝固異常が即血栓症に結びつくことはない.著者らはIBDに合併する血栓症の成因と血栓症の予知法を知る目的で,8例のIBD患者(7例は非活動性)を対象にprospective studyを行った.
栓球数やフィブリノゲン,アンチトロンビンⅢ値には有意な異常なく,FDPあるいはd-dimer assayで検出される潜在性のフィブリン形成,ビタミンK欠乏もなく,プロトロンビン時間,部分トロンボプラスチン時間,C,S蛋白はすべて正常値と,凝固系についての異常は全く認められなかった.しかし,線溶系には幾つかの異常が認められ,4例にplasminogen activator inhibitor(PAI)値の上昇,2例に腕緊縛による静脈閉塞後のeuglobulin溶解時間の延長,1例にtissue plasminogen activator(t-PA)放出の減少があった.これらは血栓症発現の危険因子と成りうると考えられた.更に5例の患者に循環免疫複合体(Circulating Ilnmune Complexes;CICs)の存在が証明され,2例のそれはlgG CICs,3例はlgM CICsの上昇であった.CICsの高い2例に線溶系の異常が認められ,IBDにおける血栓症発現の危険性との関連が示唆された.
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