初心者講座 大腸検査法・1
肛門・直腸病変の診方
武藤 徹一郎
1
Tetsuichiro Muto
1
1東京大学医学部第1外科
pp.112-114
発行日 1987年1月25日
Published Date 1987/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403111963
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1.肛門・直腸病変の診察を行う前に
肛門・直腸は人体の中では特殊な場所である.正直なところ診察を受ける方にも診察する方にも,肛門・直腸の診察は決して好まれてはいない.肛門・直腸診察に際してはまずこの点をよく配慮しておかなければならない.診察の必要なことをよく患者に説明することも他の検査と同様に,いやそれ以上に大切である.
もう1つ大切なことは,肛門・直腸の解剖ならびにその各部位に発生しうる疾患をよく理解しておくことである(Fig. 1).診察前の詳しい問診によって,疑わしい疾患名・鑑別疾患名と,それに応じて特に注意深く観察すべき部位が診察時に頭の中に整理されて浮かんでいなければならない.Fig. 1に示すように,肛門・直腸部は,肛門周囲皮膚,肛門管,直腸に分けられる.肛門周囲皮膚・直腸には通常の皮膚・直腸に発生するのと同じ種類の疾患が発生する.一方,肛門管は,この部位のみに特有な構造を有しており,それに伴う特殊な疾患が発生する.肛門管とは肛門縁から恥骨直腸筋上縁(肛門を閉じさせるときに筋肉収縮を感じる部位)を指し,上部の直腸粘膜と下部の皮膚付属器を欠く扁平上皮粘膜の間に1~5mmの幅を有する移行上皮部が存在する.この部位に歯状線があり,肛門腺が開口している.肛門管の上部からは直腸疾患と同じ疾患が,下部からは皮膚疾患と同じ疾患が発生する.両者の境界部の移行上皮部からは類基底細胞癌,肛門腺由来の癌,痔瘻に合併した癌など,この部に特有な癌が発生する.
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