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はじめに
胃集検は好むと好まざるとに拘らず,筆者らの日々の診療行為の中に無視できない立場を築いてしまった.将来の展望を考える前に,この事実の必然性をよく見きわめる必要がある.なぜ胃集検が日本に芽生え,その根を下ろし始めたのかと.
胃癌の死亡率が高いからとまず考えるのが常識であろう.しかし,胃癌の死亡率の高いのは日本だけであったはずがない.肺結核の対策に諸外国は伝染病としての割り切り方を厳しくした.したがって,日本のように集団検診をその対策の主力とした国は少ない.結核は伝染病だからその治療に専念するとともに,一方では伝染源である患者の隔離に徹底した.この伝染源の隔離は,早期発見,早期治療の必要性を認めさせない.したがって,集団検診という発想は余り出てこないことになる.しかし,日本では肺結核の集団検診が芽生え,そして普遍化し,さらに法制化されるまでになった.なぜであろうか?肺結核患者が当時余りにも多すぎて到底隔離の完全性なぞは望むべくもないと諦めたためであろうか?否,必ずしもそうではなかったように思われる.たしかに結核病棟を作り,隔離の方向に結核対策は向かっていたことも事実である.しかし,日本人である筆者らはこの隔離の徹底よりも,“肺結核も早期に発見すれば治るのだ”との道を選んだ.この道にはたしかに厳しさがない.しかし,それなりに集団検診の効果をあげてきたことは周知の事実である.これは肺結核の疫学的な流れだけが,日本という国に集団検診の根を下ろさせたのではない.この道を選んだのは,日本民族の特性というか,あるいは民族としての叡智がその根底にあったように思われる.
日本人は団体を作って旅行することが好きである.この団体としての行動は日本人は上手なのかもしれない.個人として動くよりも,集団のリズムに乗って行動することに余り抵抗を感じない.この集団性も日本人の一つの特性かも知れない.団体旅行には案内人と称する指導者がいる.この指導する側の人たちの計画に従って旅行するのが団体旅行である.胃集検も健康を管理する立場の人がいることが前提である.「健康なり,疾病の予防なりの管理は結局は個人の責任において行なわれるべきである」という考え方がある.個々の人が,個々の責任においてその健康の管理なり,疾病の予防なりを行なうべきであるという考え方である.この個人としての立場を厳しくすることは決して間違ったことではない.しかし,この考え方に徹すると集団検診への道は遠くなる.「症状の無いのにわざわざ病院なんかに行けるか」という人たちを肯定しないと集団検診は成立しない.個人としての意識の厳しさのない人の立揚を肯定しないと集団検診は生まれてこない.個々の人たちが,自らの発想で,病院に来る検診の「和」は集団検診ではない.これは多人数検診であろう.だから健康管理とか,胃癌の対策とかは,その方法論として,個人検診と集団検診とに分かれるのは当然である.この2つの方法論をどのように組合わせるかを,胃癌対策の基本において明確にしておくことは大切なことである.そして日本人の特性を考えると,集団検診の立場に相当の比重を置かざるをえないということになる.このような考え方から胃集検の未来と展望を考察してみた.
Inquiry has been made as to the reason why gastric mass survey in Japan has budded out and rooted so deeply. We have found that gastric mass survey owes its necessity to the characteristics of the Japanese people. Since it is based on their national traits, we are sure it has already taken deep root among them. Based on this conviction, we have attempted to unfold future outlook of gastric mass examination.
Its prospect first begins with standardization of examination methods as the foreground of composition, followed by ways of breaking the bottleneck in minute examination, with subsequent adoption of electron-computer as a means of furnishing information. These pictures of outlook, all conceived as landscapes in the foreground, has been drawn only for the sake of the distant view where unification of all the fronts of gastric mass survey should by all means take place.
Gastric mass survey has also been divided into two, the regional and the occupational, with the outlook of each further commented on, especially in connection with gastric mass survey with mobile units and that in existing institutions.
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