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X線検査の上手・下手は撮られたフィルムを見れば,その熟練の程度は容易に判断できる.しかし,内視鏡の上手・下手は観察が重要であるため,いくら丁寧に写真を撮れといっても,なまじ見えるものだから,うぬぼれ屋が多く,よく観察したから写真など必要ないと言われると,腕のほどは全くわからない.ほとほと手を焼いていたが,最近5年間に8例の食道Ep癌が見つかった.Ep癌は所見が非常に軽度なため,よほど丁寧に観察し,なおかつタイミングよく撮影しなくては人に納得させることができないだけでなく,術者自身も半信半疑で撮られた写真やルゴール散布を行って初めて確診がつくほど難しい.内視鏡の上手・下手を決める基準にはもってこいの病変である.最近ではEp癌を見つけないうちは内視鏡のspecialistではないということにした.ところが,われわれのグループで11名の医師が毎年5,000例以上のパンエンドスコープを行っていながら,Ep癌を見つけたものは3人しかいない.X線検査にも,向き・不向きがあるが,内視鏡も全く同様である.しかし,よく調べてみるとX線検査の熟練したものがEp癌をみつけている.どうも内視鏡から入ったものは,雑な検査をする傾向がある.見えるものは見えるし,見えないものは見えないという安易な気持が,雑な検査をするようになる.X線検査は苦労しなければ良い写真が撮れない.もう1度X線検査から鍛え直さなければ,オートアナライザーのような医師ばかりでき,食道Ep癌は少しも見つかってこないことにもなりかねない.
“見れども見えず”とはこのことだなと実感し,内視鏡の上手・下手を決めるよい基準ができたと思っている.生来,形態学に向いている人と数値的に優れた人とは別もののようである.
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