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初版の出版以来,学生に根強い人気を持つ山田英智,石川春律,廣澤一成・訳「機能を中心とした図説組織学」の第3版が出版された.初版以来の編者であるPaul R. Wheater博士が38歳の若さで夭折したのを機会に,共著者らは今回から彼の名をタイトルに入れ,「Wheater's Functional Histology―A Text and Color Atlas」Third Edition, Churchill-Livingstone(1993)として出版されたものの日本語版である.この本の製作は,原版と同じく香港の工場で図と写真のみを印刷し,その用紙を日本に輸送して医学書院が日本語の文章を刷り込む方式で出版されたものと聞く.従来から,本書のカラー顕微鏡写真のシャープさ,精密さとそのセンスのよさには定評があったが,今回の改訂では更に精選された,主に電子顕微鏡写真が加わり,またレイアウトも工夫が凝らされて,格段に読みやすくなっている.
組織学の教科書は,電子顕微鏡による新知見の導入により全く革新されてしまった.更に近年の分子生物学を基盤とした,細胞生物学・免疫学・発生学などの発展と成果は,組織学の領域にも大きな影響を及ぼし,それらの理解のうえに組織構築の解明が進められている.タイトルに「機能を中心とした」とあるとおり,本書にもそのような学問研究動向が随所に反映されており,本改訂版では特に免疫系臓器に関する内容が一新され,頁数もほぼ倍増している.また体外受精や胚操作の発達に伴い,これらの基本的理解に不可欠な女性生殖器の組織構造,とりわけ受胎・着床に関連した図や標本が10頁以上新たに付け加えられており,動物種差が極めて大きい胎盤や絨毛膜の形成過程が特にヒトについて明解な図とメリハリの利いた表現で記述されている.すなわち,本書は単に見事な顕微鏡写真による組織図譜というだけではなく,極めて現代的な視点に立った簡潔な記載の組織学教科書とみなすべきであろう.訳者は,日本を代表する3人の組織細胞学の碩学の方々であり,原著で不十分な箇所には適切な補足説明が加えられている.ただ1つ残念な点として,血球の分化は近年研究が進んでいるが,造血過程の模式図が旧版のままであり,次回の改訂をぜひ期待したい.
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