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「大腸sm癌の内視鏡治療後の長期経過」が本号の特集である.内視鏡治療の適応拡大症例が年々増加している.手技としては,古くはpolypectomy,さらにはendoscopical mucosal resection(EMR),そして近年はendoscopic submucosal dissection(ESD)が一般化しつつある.大腸sm癌の内視鏡治療後を考えるとき,初回の内視鏡治療がどの方法で行われたかも重要であるがESDの長期経過症例はまだ多くないので次回の特集を待つことになる.本号では,5年以上経過例の分析から,①内視鏡治療後の再発,転移の時期,再発様式について明らかにする.その中で,②内視鏡治療のみで経過観察可能なsm癌の条件を臨床経過から検証する.さらに③内視鏡治療後の再発,転移に対する早期発見のためのfollow up法を確立する,等が“ねらい”である.
①のねらいについて,この結果の善し悪しは初回の内視鏡治療の質,病理診断の質によって左右される.現状のこれまでの分析などをみていると,ひとたび内視鏡治療後と呼称されてからは,すべて同等になって扱われている.したがって,前述の質を問わなければデータだけが先行し,読者も含めてますます混乱に陥ることになる.「胃と腸」のもっている社会的な位置付け(消化管を専門とする領域に属する方々に対する影響力が大であること)を考えると,この特集は大変責任のあるものである.これまでの分析と同じでは困る.また,これらの結果から,摘除された標本の病理診断の精度管理の重要性を強調したある種の抑止効果,あるいは警告の役目も期待したい.転移する可能性(肝を含む臓器転移は別にしておおよそ10%前後でリンパ節転移する)をもつ大腸sm癌を内視鏡治療だけで経過観察することの重大さを認識させるために,これらの質についても特集の中で論じられる必要がある.病理診断の質の違いで脈管内浸潤の有無,深達度いずれも評価が変化する.癌の組織型診断ひとつをとっても100%高分化腺癌と30%の低分化腺癌を含んだ高分化腺癌では同等には取り扱えないだろう.また,内視鏡治療のやり方次第で再発因子の評価も変わる.深達度の浸潤距離を考えるとき,潰瘍化した病変では癌の実質的な厚さが薄くなり浸潤距離が浅くなるのは自明である.そもそも摘除できるからといって潰瘍病変をむりやり内視鏡治療することのほうが問題であろう.たとえ手術標本でこのような症例の中から転移例が見つかったとしても,EMRやpolypectomyの内視鏡的治療の経過観察のための判断根拠とはなりにくい.実際的ではないと思う.重箱の隅をつついても,かえって混乱が生じるだけである.「胃と腸」34巻6号(1999年)の序説に飯田が“…これまでに報告されてきた大腸sm癌の転移リスクファクターは,外科的切除標本の病理組織学的検索によって得られたものである.今後は,内視鏡的切除後の長期経過例をできるだけ多数例集積し,それを基に従来のリスクファクターの妥当性を検証するとともに,より客観性のある新たな指標を見い出す努力をしていくことが必要であろう…”とまとめている.まさにそのとおりである.したがって,本号の特集では内視鏡治療が行われて摘除,局所の遺残がなくても治療が完了したことにはならないことを示す症例提示も必要である.その中でどこに問題があったかも指摘することである.医事紛争を考えると勇気がいるが,専門誌だからできる高いレベルでの消化管専門医の養成のためにまとめる必要のある事例といえる.もちろん,今後の防止のための分析と対策を付記することも大切である.また,おそらくこれらの事例は貴重であろうから,既論文あるいはこれから英論文にされることも考えて,duplicated publication(二重投稿)にならない配慮も編集上必要である(International Committee of Medical Journal Editors,October,2001).いずれにしてもこれらの分析や症例を通して大腸sm癌の内視鏡治療は摘除直後から実質的な精度管理がスタートすることを示すことが肝要である.
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