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最近の寄生虫疾患
高田 季久
1
1大阪市立大学医学部・医動物学
pp.518-528
発行日 1990年3月10日
Published Date 1990/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402900133
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わが国の寄生虫症は随分少なくなった.というよりも昔が異常に多すぎたのであって,やっと普通の状態になったと言ったほうが良いかも知れない.しかし決して無くなったのではない.環境の改善につれて,患者の糞便によって汚染された飲食物から感染する,いわゆる土壌媒介性寄生虫病と呼ばれる虫回虫,鉤虫,鞭虫などは稀にしか見つからなくなり,重点的に防除対策の進められた日本住血吸虫症やフィラリア症はその姿を消した.しかし嶢虫症は今なおしぶとく幼児の間で拡がっているし,多包虫症や糞線虫症は厄介な地方病としてそれぞれ北海道と沖縄地方に分布し,ともに増加の傾向さえ示している.とくに糞線虫症は最近の新しい検査法により不顕性感染者が,4万人以上と推定され,その対策が大きな問題となっている.さらに食生活の多様化により,今まであまり知られていなかった寄生虫症が各地で見つかるようになって来た.
一方,日本以外の熱帯地や途上国には今なお多種多様の寄生虫病があり,中にはその地域特有のマラリアや睡眠病などの恐ろしい熱帯寄生虫症がある.しかるに最近の旅行ブームにつれ,寄生虫症の知識を持たず全く無防備の状態で旅行した人々が,しばしばそれらに感染し帰国後発病する,いわゆる輸入症例が年々増加している.
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