書評
—藤沼 康樹 著—「卓越したジェネラリスト診療」入門—複雑困難な時代を生き抜く臨床医のメソッド
志水 太郎
1
1獨協医科大学・総合診療医学
pp.2068
発行日 2024年11月10日
Published Date 2024/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402229857
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日本の多くの若手総合診療医に“oyabun”と慕われ,私自身も敬愛してやまない藤沼康樹先生(医療福祉生協連 家庭医療学開発センター長)の初の単著を拝読しました.読了後に浮かんだのは,米国の医師フランシス・ピーボディ(1881〜1927)の格言「患者ケアの秘訣は患者をケアすることにある」1)でした.「臨床医の重要な資質の1つは人間性への関心である」とするこの格言が,本書の箴言の数々と共鳴し,胸を撃ち抜かれたような衝撃を何度も感じました.それが,この本の通読1回目の感想でした.
本書の第Ⅰ章1節の最初のページに明記されているように,医療は「不確実性」が高いものです.現代の医学教育では,多くは説明可能でクリアカットな部分が好まれ,不確実な「灰色」な部分(グレーゾーン)は全体からすれば補集合の扱いに甘んじ,時に無視されてきたのではないかと思います.しかし,この不確実な領域への関心と探索がなければ,全体をつかむことはできないでしょう.コントロール可能な壁の中の世界にだけ生きていたのでは,エルディア人たちは自分たちの始祖のことを決して知り得なかったのではないでしょうか(『進撃の巨人』).本書にはその不確実性をも可能な限り言語化して構造化する試みが随所にあり,本邦で現在これに比肩する類書は存在しないとみます.
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