書評
—岩田 健太郎,林 祥史 著—カンボジア医療の歴史,現在,そして未来—世界で役に立ちたいあなたへ
尾藤 誠司
1
1東京医療センター総合内科
pp.2365
発行日 2022年12月10日
Published Date 2022/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402228639
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◆大人であることの要件
ヘルスケアというサービス産業に従事している人は幸せだと思います.その職種で仕事をしているだけで,なんとなく人の役に立っているような気分を味わえるからです.嫌味ではなく,実際に役に立っていると思います.一方で,そのような立場を得ることは弱みでもあります.「ありがとうございます」と言われる立場の日常によって,「はたして,自分は本当に世界の役に立っているのか?」「世界は,もっと善くなってよいのではないか?」という問いを立てにくくなるからです.
本書は2部に分かれていて,前半はメインタイトルの通り,カンボジア医療の過去から現在までの状況,さらにはカンボジアという国やそこに住む人々が経験した歴史と医療との関係について多くの資料とともに紹介されています.このテキストが一般的なカンボジア医療の現状紹介と異なっているのは,おそらくイワタ先生のなかに「自分はなぜカンボジアに惹かれ,カンボジアを訪れ続けるのか?」という問いがあり,その問いに答えるために書かれたテキストだからでしょう.特に,カンボジアの社会と人々が経験した歴史について,自らに言い聞かせるようにイワタ先生の文章が進んでいるのが印象的です.
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