書評
—Pat Croskerry 著 宮田 靖志,中川 紘明 監訳—誤診の解体—診断エラーに潜む認知バイアス—(The Cognitive Autopsy:A Root Cause Analysis of Medical Decision Making)
志水 太郎
1,2
1獨協医科大学総合診療医学
2獨協医科大学病院総合診療科診療部
pp.751
発行日 2022年4月10日
Published Date 2022/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402228232
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近年の国際的な数々の提言のなかでも,「診断の改善」は近年世界の医療全体が取り組むべき課題として5指に入るほど重要であると言えるでしょう.実際,日々の現場で起こる“誤診”や“診断の遅れ”から発生する患者,家族,医療スタッフ,厚生経済への負担を考えると,これは理解できることだと思います.
原書が発表された2020年,本書が出版された2021年は診断学業界にとって象徴的な年でした.2020年までの10年間は医師の診断思考(頭の中)にフォーカスが当てられ,どのような経緯で診断のエラーが起こり,それをどのように認知心理学を中心とした方法で解決していくべきか,ということが多く議論されました.さらに2020年には状況性situativityという言葉も登場し,医師の頭の中だけでなく,それに有機的につながる環境やセッティング,人的要因などのすべてを包含して診断の改善に立ち向かわなければならないというスローガンも提唱されました.2021年になり,診断改善の先陣を切る学術誌『Diagnosis』や,『JAMA』をはじめとした主要紙は,この領域の目指すものを診断の卓越“diagnostic excellence”という新しいキーワードで,次のステージに歩を進めている状況です.この10年で当領域のアイコンとなったキーワードは「診断エラー」であり,人間の認知や意思決定に影響を及ぼす「認知バイアス」でした.
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