天地人
連綿輪廻
柳
pp.2017
発行日 1983年11月10日
Published Date 1983/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402218536
- 有料閲覧
- 文献概要
若い人たちの,脆弱をキジャク,蠕動をダドウ,直戯をチョクサイと読む類の誤りは,誰しもが経験するところである.自分の医局員が学会発表でそれをやらかした時などは,足許におのが身丈に合った穴もがなという心地になる.若者ばかりではない.五十代も半ばの歴とした教授の講演の中に,しきりにバイケンという言葉が出てくるので,何かと思ったら剖検のことであった.この人は解剖という字をどう読むのであろう.大人は若者が誤りを冒すたびにそれを正してやらねばならないが,その作業は連綿一生続けてもこれで終りということがない.
截の字.昔lithotomyを截石(術)と訳しセッセキと読ませた.今は砕石である.この言葉はギリシャ語のlithos(石)+tome(切ること)を語源とし,cutting forstone(結石をとるための切開術)の意味である.截にはサイという読みもなく,クダクという意味もない.漢字制限のために截石が使えなければ切石しかないが,誰もが切石などは棄てて顧みない.医学辞典の類にも,いつの頃からか砕石が正統な用語として幅を利かせている.砕石術ならば,lithotripsyやlithotrityという立派な言葉が昔からあるにもかかわらずである.
Copyright © 1983, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.