天地人
老人の群
天
pp.621
発行日 1979年4月10日
Published Date 1979/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402215858
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文芸春秋誌上で読んだのだから間違いはない.トンチン公債というのがあるそうである.定年になったとしよう.そのときの退職金が2000万あったとすれば,そのような人が100人あつまって,一種の講を立てるのである.つまり2000万×100の金額を,国または公団に譲渡してしまうのだ.その金はかえってこない.しかし,その配当金だけは,その人が生きているかぎりもらえるのである.かりにそれが年5分とすれば,年に100万円はもらえることになる.これは大した金ではない.しかし,同志が死亡すれば,その配当金は,残った同志に分配される.だから,講を立てあった同志が50人に減れば,配当金は200万になる.25人になれば400万,さらにその半分になれば800万ということになる.つまり,長生きすればするほど,年収はどんどん増えることになるのである.
ところが,これが意外にはやらなかった.元金がかえってこないということもあるであろうが,一番大きな問題は,他人の死が自分の利につながることにあったようである.人間は慾ばりだから,自分の年収を増したいばかりに,人の死を願うことになり,これは倫理的に面白くないということのようである.
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