臨床医のための心の科学
虚と実の心理学
北山 修
1
1武田病院
pp.300-301
発行日 1979年2月10日
Published Date 1979/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402215779
- 有料閲覧
- 文献概要
テレビジョンと「メディア現実」
テレビジョンが一般家庭に普及して20年近い年月が流れ,生まれたときからテレビと接触している者たちが次々と「成人」している.不特定多数の人々に向けて同じ内容のものを同時に送り届けるという意味では,テレビジョンが代表的なマスメディアとしてあげられるが,ラジオ,映画,新聞からレコード,ポスターにいたるまでのそれぞれのメディアがテレビジョンの私的な接触を契機にして社会全体にひろがる「メディア現実」と呼ばれるものの現実性と存在感の一部を支えており,それは私たちの肉体が灰になる現実とは区別されるはずのものだろう,実際,楽観論者たちは「子供たちや人々は現実とテレビの世界を区別している」と語るのだが,そういう主張がおしだされる背景には「区別できない」可能性についての不安があるのではなかろうか.
従来のマス・コミュニケーション論や情報理論では,テレビジョンなどのメディアは現実生活の手段でしかなかったが,60年代にはいって私たちの生きる空間の構成要素となり,物的現実,外的現実,事実の系から独立した経験世界となりつつあると主張されるようになった.そして,マスメディアのつくりだす「メディア現実」の存在が人間の精神構造を変容させることの「予言」もすでになされており,その変化が日常的なものになればなるほど,それに伴う危険の可能性も日常的なものになるはずである.
Copyright © 1979, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.