教養講座・比較生物学 生命と環境との調和
個体の識別—血液型を中心に
松本 秀雄
1
1大阪医大法医学
pp.1662-1667
発行日 1978年11月10日
Published Date 1978/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402208115
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はじめに
個体の識別とは,他のすべての個体からの識別を可能にするような特徴によって決定される個体の認識を意味している.Aというヒトを,A以外のすべてのヒトから識別することを可能にするような,個々のヒトにみられる違い,多様性は,身長,体格,容貌といった外観的な特徴から,歯型,音声,皮膚紋理,さらに血球型,血清型,酵素型など分子レベルでの組織構成要素の違いといったものがその基礎となっている.ヒトはこのような遺伝的な構成において,個々に相違していることは明らかであって,たとえば皮膚の移植といったことも,一卵性双生児を除いた個体間では決して成功しないという事実は,よくこのことを物語っている.
なにゆえに各個体の間にこのような多様性が生じているのであろうか,またどうしてある民族では他の民族と集団としての違いを生じているのであろうか.このような事柄について考えてみると,表現されている遺伝的多様性のよってきたるところは,相違する対立遺伝子の存在にあって,このような遺伝的多様性を招来した対立遺伝子というものは,それぞれの遺伝子座にある,それぞれ共通の祖先遺伝子から由来した遺伝子の,突然変異の積み重ねの結果生じたものである.また,遺伝子の流れ,遺伝的浮動,あるいは,ある集団に限られた遺伝子の突然変異とかいった事柄が集団の特徴づけとなっている.
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