私の本棚
新しい貧血の知識をもとに血液病学へ
柴田 一郎
pp.1512
発行日 1978年10月10日
Published Date 1978/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402208073
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私はかつて医師になりたての海軍時代,終戦からひと月あまり,長崎で原爆症の治療に携わる機会があった.当初は激症の無顆粒球症ともいうべき形で発病し,9月に入る頃には再生不良性貧血の形をとって発病したが,当時小宮先生の血液図譜と金井先生の検査法だけを頼りに善意のみあっても能力も薬も足りずに苦労した,以来,血液学に愛着を持って復員し,入手不能であった小宮先生の臨床血液学を友人に借りて筆写したこともあったが,当時の形態学的血液学は完成したものと考えられたし,いつのまにか他の領域に興味の対象が移ってしまい,長い間ご無沙汰していた.
たまたま対談形式による三輪史朗,高久史麿著「貧血」(医学書院,1974)を読み始めて,またそちらの興味が蘇ってきた.この本は新しい病態生理に基づき貧血の診断と治療を語り,しかも非常に読みやすく,肩のこらない文体で,なんの予備知識がなくとも気軽に読める本であるが,溶血性貧血では高久氏が,その他の項では三輪氏がそれぞれ主に聞き役になり,かなり高度な貧血の知識を知らぬうちに与えてくれる.貧血といっても,凝血学と多血症以外の血液病のほとんどに触れ,この方面ではマンネリ化した診療にとどまっていた私に異常な感銘を残してくれた.血液学入門の本としては最も新しくかつ実用的で,誰が読んでも明日の診療にも役立つ本である.
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