教養講座・比較生物学 生命と環境との調和
水と浸透圧
内田 清一郎
1
1鹿児島大理学部生物学
pp.250-254
発行日 1978年2月10日
Published Date 1978/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402207754
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はじめに
生命は海に誕生したというが,海にすむ無脊椎動物の体液浸透圧は海水に等しく―約1000mOsm/l―イオン組成もまた海水にきわめて近い.海という非常に安定した環境にあって,無脊椎動物は多様な進化をとげたが,外部環境にほぼ等しいその内部環境(体液)は,これと浸透圧は等しいが,構成成分を異にする原形質(細胞)を保護して,その活動を可能にしている.動物体の体積と体液中の溶質濃度とは,普通,比較的狭い範囲で一定に保たれ,正常の状態からの大きな変動は死を意味する.すなわち,水と溶質に関して定常状態にあること―内部環境(浸透圧)の恒常性―が生命の維持にはきわめて重要である.
地球表面の2/3以上は水でおおわれているが,その大部分は海で,川や湖の淡水が占める面積は1%にも満たない.淡水が海に接する海岸には汽水域があり,海水の塩分が35%。(パーミル,パーセントの1/10)であるのに対して,汽水の塩分は0.5〜30%。と大きな変動を示す.淡水は普通0.001〜0.1%。の塩分しか含まない.汽水域もまた地球表面の1%以下であるが,ここにすむ生物群は多彩で,生理学的にも進化学的にもきわめて重要な存在である.海の生物はこの汽水域を経て,淡水,さらには陸上にまで進出した,外部環境の濃度低下に伴って,内部環境の濃度も低下したが,細胞の機能を保つためには,内部環境の濃度低下にも限度があり,動物によってさまざまの濃度の体液がつくられた.
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