私の経験例
多発性腫瘍性微小肺塞栓症の一例
高橋 唯郎
1
1北里大学病院内科
pp.1654
発行日 1977年12月5日
Published Date 1977/12/5
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402207472
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患者は45歳の女性である.労作性呼吸困難(Hugh-Jones III度)が入院3カ月前から出現し,次第に増悪し,起坐呼吸状態となり入院.入院2年1カ月前左乳癌および左腋窩リンパ節転移にてMastectomyを受けた既往がある.入院時,理学的にはacutely ill,脈拍140/min整.呼吸40/minで浅.心音,呼吸音はともに純.頸静脈怒張(-).肝触知せず.下肢浮腫(-).胸部X線所見も正常.ECGは右室負荷所見のみ.血液ガスはPo2 56.5mmHg,Pco2 15.8mrnHg,pH 7.47と著明なhypoxiaを認めた.検査所見ではLDH 510単位と軽度上昇をみたのみである.以上の所見よりまず肺塞栓症を考えた.しかし,入院直前に骨折,手術,重症疾患などに罹患し,bed restを強要されたこともなく,表在性の血栓性静脈炎は認めない.また血液学的にも凝固能に異常はない.患者は肺動脈造影施行中急死し,剖検により多発性腫瘍性肺塞栓症と診断された.本例では悪性腫瘍に伴う血管内凝固症候群(DIC)は血液学的にはまったく考えられず,剖検でもfibrin血栓をまったく認めなかったことが極めて特異であり,乳癌による腫瘍性肺塞栓症の診断を遅らせた原因である.
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