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糖尿病における高脂血症の発生
糖尿病患者には種々の原因により高脂血症が発生する.すなわち,糖尿病性代謝異常によるもの(糖尿病性高脂血症),加齢,飲酒,薬剤によるもの,合併疾患によるもの,さらに原因不明のものなどである.このうち,糖尿病性高脂血症が最もしばしばみられるが,一方,重症糖尿病(ケトーシス)にもかかわらず高脂血症のない症例もかなり存在する.重症糖尿病では組織レベルの代謝異常は必発と思われるが,それが糖尿病性高脂血症として反映される場合とそうでない場合があるのは何故であろうか.糖尿病性高脂血症は次のような多数のステップのバランスの崩れたときに発生すると考えられる.①食事(総カロリーおよび組成),②リポ蛋白の前駆体である血中遊離脂酸の濃度,③肝の脂肪合成,④肝のリポ蛋白合成(脂肪とアポリポ蛋白の結合),⑤肝からのリポ蛋白の血中への放出,⑥血中リポ蛋白の代謝,⑦血中リポ蛋白の組織へのとり込み.
高血糖と異なり,高脂血症の発生に著しい個体差がみられるのは,血中脂質レベルが上記のような複数の因子で調節されているためではなかろうか.糖尿病性高脂血症の発生機序に関する仮説としては,図1に示すように,血中脂質の利用低下を要因とみるものと,血中脂質の産生過剰を要因とみるものとがある.前者は上記のステップ⑦の障害を一次性異常とみなすのに反し,後者ではステップ②,③,④,⑤の異常亢進が重視される.すなわち,利用低下説によると,糖尿病性代謝異常(インスリン作用不足により発生)が血中脂質除去の主役であるリポ蛋白リパーゼ活性を低下させるので高脂血症が発生するが,肝のリポ蛋白合成とその血中への放出は正常あるいは低下していても構わない.食事脂肪(カイロミクロン)も血中に停滞しやすいので,IV型,V型あるいは高度の乳濁血清を呈するI型高脂血症のこともあり,また,高脂血症が全くみられないこともありうる.一方,重症糖尿病でも血中脂質の除去機構に障害を認めないとの成績があり,産生過剰説はこれに基づく.すなわち,インスリンの作用不足の結果増加する遊離脂酸(脂肪組織由来)および糖新生の過程で生成されるα−グリセロ燐酸を素材として肝の脂肪合成が亢進し,高脂血症が発生する.しかし,肝のα−グリセロ燐酸およびアポリポ蛋白が重症糖尿病で実際に十分供給されうるかどうか,産生過剰説ではこの点の裏付けが不足している現状である.筆者らは,糖尿病性代謝異常としての高脂血症は主にリポ蛋白およびカイロミクロンの利用低下に基づいて発生することを示唆する成績を得ているが,なお不十分であり,今後の検討に待たなければならない.
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