- 有料閲覧
- 文献概要
赤血球産生低下の原因
赤血球の産生は図に示したように骨髄中の造血幹細胞(stem cell)が造血因子エリトロポエチンの作用で前赤芽球になることから始まる.一度前赤芽球に分化した赤血球系細胞は活発に分裂を行なって数をふやすとともに,ヘモグロビン蛋白をその中で合成し,数日のうちに完全に分化成熟した赤血球となって末梢血液中に出現する.赤血球の産生低下はこの図の中のどこに異常があっても起こってくる.すなわち,ⓐ幹細胞の質的あるいは量的な異常,ⓑ幹細胞をとりまく造血の場(hematopoietic microenvironrnent:HIM)の異常,ⓒエリトロポエチンの産生低下,ⓓ赤芽球のDNA合成,ひいては分裂の異常,ⓔヘモグロビン合成の低下,などが赤血球産生の低下による貧血症の原因としてあげられる.この中のⓐとⓑ,すなわち造血幹細胞あるいはそのまわりのHIMの異常による貧血症の代表的なものであると考えられているのが再生不良性貧血で,本症にみられる骨髄の低形成は幹細胞自身あるいはそのHIMに異常があって起こったものと解されている.その他急性白血病,骨髄線維症,腫瘍の骨髄転移の際の貧血もⓐ,ⓑいずれか,あるいは両者の混在によって起こっていると考えられる.また老年者では幹細胞の数の減少があり,それが高年齢にみられる貧血の一因であろうと推定されている.ⓒのエリトロポエチンの産生低下による貧血症として,代表的なものに腎性貧血がある.高度の腎機能障害に伴う腎性貧血では一般に赤血球産生能力の低下がみとめられるが,これはエリトロポエチンの産生に腎が密接に関連し,腎の障害に際してはその機構が障害されるためであると解される.ⓓ,ⓔの異常はおのおのビタミンB12,葉酸の欠乏症並びに鉄欠乏性貧血,タラセミアなどが代表とされている.このうち,白血病,骨髄線維症,腫瘍の転移,B12,葉酸欠乏症,鉄欠乏性貧血,タラセミァなどについてはそれぞれの項目を参照されたい.また,腎性貧血は診断上それほど困難でない場合が多いので,ここでは主として再生不良性貧血の診断について説明を加えたい.
Copyright © 1974, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.