ある地方医の手紙・1
第一着ゴールインの話
穴澤 咊光
1
1穴澤病院
pp.822-823
発行日 1972年6月10日
Published Date 1972/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402204126
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W先生.
あと小一時間もすると除夜の鐘が鳴るでしょう.これが普通の家庭なら,一家で寛いで年越しのソバを食べるところですが,私は今にも往診の電話がかかってきやしまいかと,全神経をピーンと緊張させ,白衣を着たままで年を越すのです.毎年,大晦日から正月3日間の当A病院は,まさに臨戦体制,当直に腕ききのナースをそろえ,ベッドを空け,患者の御入来を今やおそしと待ちかまえます.ですから,ここに来てから正月の屠蘇酒なんか,ゆっくり飲んだことは一度だってありません.それというのも正月はどこの開業医も休診で,しかも当地は12月の末から脳卒中のシーズンに入るので,大晦日から正月三カ日の患者は救急指定病院でもない当院にも嫌応なしに転げこんでくるからです.年末年始の当直医,それはいわずと知れた私1人にきまっています.
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