読後随想
技術と哲学の間—Advance in Cancer Research(Year Book)
長洲 光太郎
1
1関東逓信病院外科
pp.134-135
発行日 1972年1月10日
Published Date 1972/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203984
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手術拒否事件
Advance in Xという型式のシリーズは何種類も出ている.私が定期的に入手して読むのはその一部にすぎない.Advance―何という魅力的なひびきをもつ語であろう.ただし私自身は医学にかぎらず,学問の無限のAdvanceをohne weitersabsolutに信用しているわけではない.
さて,数日まえの新聞によると,Down症候群(モンゴル症)の幼児の救命―延命というべきだろうが―手術をその両親が拒否したというニュースがあった.ご承知のように,Down症候群は染色体異常症候群の1つで,主症状は白痴と発育不全,多くの奇型を合併する疾患で特有な顔貌からモンゴル症と呼ばれる.蒙古人にとっては大変迷惑な病名である.知能指数I.Q.は20とか30という低さを示すが,知能が低いというだけで死ぬわけではない.しかしいろいろの奇型が合併していて,長くは生きられない.延命的手術がなぜ絶対適応になったのかくわしいことは商業新聞の記事からは判断できない.担当医は何か手術をして,放置すれば死ぬ患児の延命をはかる必要があると言ったのに対し,両親のほうでは手術をしたところでモンゴル症がなおるわけではなく,手術による延命は患児にとって何の幸せを約束するものではないといって拒否したのである.
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