Current Abstracts
自動車衝突と心臓
浦田 卓
pp.796
発行日 1971年5月20日
Published Date 1971/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203665
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正面衝突の犠牲者が手押し車で救急室に運びこまれるや,医師はまず,頭部をしらべるが,これは重大な外傷が頭部にないかどうかを知るためである.つづいて,胸部をしらべるが,これは折れた肋骨が肺を穿通していることがよくあるからである.そしてさいごに四肢をよくみる.しかし心臓とそれに接している"大血管"をしらべるのは,ずっとあとのことである—それも,しらべるとしたらのことであるが.ところが,多くのばあい大動脈には,こんにちの進んだ外科なら是正できるような潜在的に致命的な損傷が存在しているのである.
衝突事故にまきこまれた搭乗者は,重力よりも幾百倍も大きい減速力をうけることがよくある.減速が突然生じても,ガッシリした胸壁ならふつう,操縦桿のようなものにぶつからないかぎり,損傷は少しもうけない.心臓もまた同様である.しかし,人体のなかでもっとも大きい血管たる大動脈は,その大動脈弓の下部のところが,シッカリと固定されていないので,自動車が衝突して停止するさい,胸壁と心臓の前進運動は突然停止するが,大動脈のある一部は1秒の何分の1かなお前進運動をつづけるのである.
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