臨床病原微生物学
トキソプラズマとトキソプラズマ症
浅見 敬三
1
1慶大寄生虫
pp.876-880
発行日 1967年6月10日
Published Date 1967/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402201822
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トキソプラズマ症は最近では内科,小児科,産科,眼科などでよくみられるようになつてきたが,臨床像が複雑なため,臨床所見のみで診断を下すことは非常にむずかしい。その感染径路,臨床像,診断方法などについて。
感染症の歴史のうちでトキソプラズマ症のそれはきわめて新しいものの一つとしてよいであろう。もつともヒトのトキソプラズマ感染を最初に報告したのは1923年のチェコの眼科医Jankuのそれであるといわれているからさほど新しいものではないともいえるが,確実に病原体を患者から発見し,病因としてのトキソプラズマの意義を認めたのは1930年代末のWolfらの症例で,この時期にいたつてようやくヒトの感染症としてのトキソプラズマ症の存在が一部の研究者に知らされたのである。しかし,当時はまれな疾患と考えられていた本症が,第二次大戦後欧米で続々とみいだされるとともに,1948年にSabinらによつて色素反応とよばれる免疫反応が案出されて本症の抗体保有者がきわめて多いことが判明して,初めて本症の重要性が認識され,医学の研究対象となつた。わが国においても本格的な研究が開始されたのは1952年ごろで,その2〜3年後からヒトの症例がみいだされはじめ,こんにちでは内科,小児科,産科,眼科などの領域で,もはや珍しくはない疾患となつている。
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