連載 Festina lente
ドイツふたたび
佐藤 裕史
1
1慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター
pp.1269
発行日 2012年7月10日
Published Date 2012/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402106065
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一年目の内科レジデントは夏休みなしが病院の決まりだったので,二年目の夏休みは待ち遠しく,かねて行きたかった当時の西ドイツのHeidelbergとBerlinだけを回る旅程を組んだ.Heidelbergでは「哲学者の道」で詩人Eichendorfの石碑に感じ入ったこと,ドイツ滞在中の外科の友人とビールを飲んだこと,荘重なHeidelberg大学病院の前で感激したことしか覚えていない.Berlinは東西ドイツ統一の直前で壁がまだ残っていた.砂漠のように細長く続く壁と壁の間の緩衝地帯を,数カ月前なら射殺されたのだと思いつつ散策し,Wim Wenders監督映画“Der Himmel über Berlin”(邦題『ベルリン天使の詩』)で天使たちがその頂上にたたずみ下界を見晴るかしていた勝利の塔まで延々と歩いた.後年北欧までのバス旅行の途中,名も忘れた地方都市で一泊したほかはドイツ再訪の機会のないまま二十年が過ぎた.
縁あってこの二都市の病院に用ができ,先般再訪を果たした.空爆から無傷であったHeidelberg旧市街は厳重に保護され趣きは不変だが,大学病院の大半は新市街の外れに最新鋭の設備として移り,昔の建物は臨床研究支援施設に転用されているがこれらも早晩新病院群近くに新築移転するという(英国同様ドイツも医療への投資は著しく,日本とは好対照である).移転費用捻出のために由緒正しい建物を大学は売り,他目的に転用されるが外観はいじれないから,この街では時の流れの止まったようにたたずまいは徹底して不変であり,求められる機能への迅速な対応との対比が印象的であった.
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