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単純X線撮影の意義
側頭骨の画像診断を扱った最近の代表的なテキストでは,単純X線写真はほとんど取り上げられておらず,CTやMRIを中心とした画像診断プロトコールが示されているものが多い1).非常に微小な構造の診断を要求されるこの領域において,単純X線撮影の意義が乏しくなったことを示していると思われる.ただ,一部の総説では,スクリーニング的な目的での単純X線撮影の必要性が触れられている.わが国においても,耳科的疾患の診断におけるfirst stepの一つとして,多くの施設で単純X線写真が撮られている現状もある.側頭骨の単純X線撮影がもつ意義は,施設によってある程度異なると思われる.CTやMRIのない病院や医院では,大きな異常を除外する目的で単純写真が撮像されていることが少なくないようである.一方,CTやMRIが可能な施設においても,少なからず単純X線写真が撮像されている.症状や理学的所見からCTやMRIによる評価が必要と考えられる,あるいはこれらの検査が予定されている患者に対して,とりあえず単純写真を撮っておくという考え方には,医療経済やX線被曝の観点から問題があると考えているが,単純X線写真の所見もふまえてCTやMRIの適否を決定するということもあるようだ.
単純X線撮影や断層撮影がCT以上に有用な状況としては,人工内耳や人工中耳の術中・術後評価が挙げられる.実効スライス厚を薄くできるMDCTの普及によってかなり改善されたとはいえ,CTにおける金属アーチファクトは一つの問題である(後述).また,CTまでは必要としないが乳突蜂巣の発達・含気などを評価しておきたいという状況もある.子どもの急性・滲出性中耳炎の予後判定,鼓膜チューブ留置の期間,鼓膜穿孔のない伝音・混合難聴耳の中耳炎の関与推定,急性中耳炎に伴う合併症の可能性推定などが挙げられる.
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