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超音波像による腹水の評価においては,その分布と性状とが重要となる.仰臥位において解剖学的に腹腔内で最も低位となるのは,Douglas窩とMorison窩であり,少量の腹水の存在を評価するためには,同部位の観察が必須となる(図1).また,腹水は原則的に左右対称性に分布する.ゆえに腹水が非対称性に分布する場合は,腹膜の癒着や奇形,(癌性)腹膜炎などの存在を考慮する必要がある.腹水は一般に無エコーの液体として捉えられるが,内部に微細点状エコーやdebris,あるいはフィブリンネット様の構造が認められた場合は,炎症(膿瘍を含めて)や出血,癌性腹膜炎などの存在が示唆される.腹水の原因はさまざまであるが,腹水存在時に胆囊壁肥厚(double wall,triple layers)の有無をチェックすることは,腹水の原因を診断するうえできわめて重要となる.日常臨床において腹水の原因として最も多いものは,肝硬変とネフローゼ症候群などに伴う低蛋白血症であろう.肝硬変の有無にかかわらず,低蛋白血症では,腹水中の胆囊壁は浮腫性に肥厚する.また,低蛋白血症を伴わない肝硬変においても,門脈圧亢進症により門脈に流入している胆囊静脈はうっ血するため,胆囊壁はしばしば肥厚する.一方,癌性腹膜炎では,悪液質などで低蛋白血症をきたしている場合でなければ,腹水は存在しても胆囊壁が肥厚する理由は特にない.筆者らの経験では,腹水中の胆囊壁に肥厚が認められない場合の9割以上は癌性腹膜炎であった.ただし,例外はある.例えば,胆囊癌や肝硬変に伴う肝細胞癌では,腹水と胆囊壁肥厚とが同時に認められる(図2).また,肝十二指腸間膜リンパ節に転移をきたしている場合などでは,胆囊壁にリンパ浮腫を伴うことがある.これらの場合は,癌性腹膜炎であっても腹水中の胆囊壁が肥厚することになる.逆に,癌性腹膜炎ではないにもかかわらず,腹水中の胆囊壁が肥厚しない場合もある.例えば,pseudomyxoma peritoneiでは腹水中の胆囊壁肥厚は認められないし,慢性胆囊炎により胆囊壁の線維化が著明な場合は,少なくとも腹水中の胆囊壁に浮腫性の壁肥厚は認め難くなる.CAPD(持続性自己管理腹膜透析)中の患者の胆囊壁に肥厚が認められないことは自明ではあるが,筆者は,硬化性腹膜炎の判定を目的としたCAPD施行中の患者の超音波検査中に,何度も思わず“どきり”とした経験を有する.
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