視点
少子社会を支えるための医療保険制度の改革
大久保 一郎
1
1筑波大学社会医学系
pp.690-691
発行日 2000年10月15日
Published Date 2000/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902373
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平成10年度の国民医療費の概況が最近公表された1).これによると総額は29兆8,251億円であり,対前年度増加率は2.6%である.この増加率の単純平均を年代ごとに比較すると,昭和30年代は16.0%,40年代は19.3%,50年代は11.0%,昭和60年から平成8年は5.5%と40年代をピークに低下してきている.平成10年の増加率は国民医療費が公表されるようになった昭和29年以来史上2番目に低い値である.ちなみに最も低いのは前年平成9年の1.9%である.この2年間医療費の伸びが厳しく抑えられたのは,診療報酬の改定幅の抑制,薬価基準の引き下げなどの各種の医療費適正化対策によるものと思われる.しかし,国民医療費の対国民所得比はこの低い増加率にもかかわらず,対前年度0.45ポイントも増加し,7.86%と史上最高を記録し,国民の負担は着実に増加している.この0.45ポイントは史上2番目に高く,史上最高は昭和49年度の0.66である.49年度は老人医療の無料化,2回の診療報酬改定,オイルショックなどの影響を受けたが,医療費そのものの増加率も36.2%と史上最高を記録している.一方,平成10年度の国民所得比の最も重要な増加要因は国民所得の伸びがマイナス3.3%と史上最低を記録したことにある.昭和49年が医療費と経済の高度成長時代によるものであり,平成10年は医療費と経済の低成長時代によるものであるというのは,面白い対照を示している.
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