連載 福祉部門で働く医師からの手紙
「痴呆老人を地域で支える」という現実
牧上 久仁子
1
1豊島区中央保健福祉センター
pp.766-767
発行日 1997年10月15日
Published Date 1997/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901776
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今年の1月,この冬一番の寒さが緩んだ朝,78歳の女性Aさんが自宅の玄関で冷たくなっているのを訪問した保健婦とヘルパーによって発見されました.
Aさんは3年前にご主人を亡くし,都営住宅にひとりで住んでいました.子どもはなく,唯一の身寄りは亡くなったご主人の甥ごさん2人だけです.2〜3年前から痴呆症状が出はじめ,ご近所を長時間徘徊するようになりました(Aさんの場合は道に迷ったり,いつものルートをはずれて遠くに行ってしまったりということはないので厳密にいうと徘徊ではないのですが…).Aさんの脚力はたいしたもので,夏の暑い中も,真冬の木枯らしの中でも,それこそ一日中ご近所を歩きまわっているのです.彼女の徘徊コース? 上に区の高齢者施設がありました.豊島区ではことぶきの家と呼んでいます.元気な高齢者にレクリエーションを提供したり,看護婦・福祉職が相談を受けるなど,さまざまなサービスをしています.全区で16館あり,入浴できる施設もあります.Aさんは日課のようにことぶきの家に寄ってはしばらく休み,また徘徊を続ける,といったように日々を過ごしていました.
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