保健活動—心に残るこの1例
S幼稚園集団下痢事件から学んだこと
土屋 久幸
1,2
1埼玉県川口保健所
2前埼玉県衛生部保健予防課感染症対策係
pp.742
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401900906
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筆者が公衆衛生に入り,4年目も半ばを過ぎようとした平成2年10月18日,S幼稚園集団下痢事件が起こった.
最初の連絡は,園児の入院している病院を管轄する保健所からで「浦和市代山のS幼稚園児が下痢症で5名入院し,うち,2名が死亡した」というものだった.当日入手した情報では,①患児は血性の下痢を呈している,②患児の中にはDICや溶血性尿毒症性症候群を呈している児もいる,③入院している患児が,S幼稚園児およびS幼稚園関係者である,などだった.これらの情報からS幼稚園の園児らが,何らかの共通の病原体に侵されていると想像された.この病原体が何であるかは全くわからなかった.その後の調査で,この病原体はS幼稚園の飲用井戸水中に存在した病原大腸菌O157:H7という腸管出血性大腸菌で,この菌はベロ毒素(赤痢の志賀菌の持つ強力な毒素によく似たもの)を産生し,出血性大腸炎や溶血性尿毒症性症候群を引き起こしていたことがわかった.
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