保健活動—心に残るこの1例
ワゴン車で暮らすSさん
高椋 真弓
1
1福岡県山門保健所
pp.144
発行日 1993年2月15日
Published Date 1993/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401900752
- 有料閲覧
- 文献概要
「猛暑」,「台風」,「寒波」と聞くとSさんは大丈夫かと気になり訪問する.ワゴン車で暮らすSさんは「私は,神から選ばれて教祖になったのです.万物はすべて私の味方です」と笑いとばし,私の訪問を迎えてくれる.私は生活しているSさんの姿を見て,ほっと胸をなでおろす.
精神分裂病のSさんは,55歳の男性である.23歳からの6年間と37歳からの16年間の計22年間の入院経験がある.Sさんは精神病院を離院し,生まれ故郷の廃船で生活しているところを発見された.兄と共に訪問し,Sさんと面接した.廃船の中には畳が1枚と,蚊取り線香が置いてあるだけだった.真っ黒く日焼けしたSさんは,かしこまって「今の生活に不自由はないが,早く家を探して移るつもりです」と話し,保健婦や兄の訪問は迷惑な様子だった.病気のことを話題にすると緊張した硬い表情に変わり,「兄と病院がぐるになり,私を陥れようとしている」など被害的な言動が出た.廃船での不自由な生活では健康が守れないと思うので,身体のことを心配していると伝えた.元主治医に連絡すると「病名は精神分裂病.病識はなく,関係妄想,被害妄想があり,入院中の療養態度は悪く,再入院は受け入れられない」とのことだった.
Copyright © 1993, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.