特集 高齢者の低栄養予防・フレイル予防
扉
佐々木 敏
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1東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野
pp.501
発行日 2021年8月15日
Published Date 2021/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401209670
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高齢者における低栄養とフレイルの予防は高齢社会,超高齢社会を迎えたわが国にとって急務の一つである.しかも,これは従来行ってきたメタボリックシンドロームの予防や対策を目的とした栄養改善とは根本的に異なり,場合によっては相反する.
「低栄養=低エネルギー」ではない.低栄養は低エネルギーを含み,栄養素(例えばたんぱく質)不足も含む広い概念である.また,たんぱく質などの栄養素は「たくさん摂取すればするほど良い」といった単純なものではない.さらに,エネルギーと栄養素が整った食事を提供すればそれで解決するわけでもない.それを摂取できるだけの摂食嚥下機能が備わっていなければならないからである.加えて,独居高齢者などでは食品へのアクセスの難しさも問題となるなど,生活環境の要因も無視できない.このように,低栄養とフレイルを取り巻く栄養問題は複雑かつ多岐にわたっている.その理解のためには,人間を扱う人間栄養学とその主な研究手法である栄養疫学の基本知識が欠かせない.しかしながら,公衆衛生専門職の教育においてこれらを学ぶ機会は乏しいのが現状である.そのために,公衆衛生における栄養問題(低栄養とフレイルの予防も含めて)は過小評価されるか,または,経験的・情緒的な解釈や判断,対策に陥りがちである.
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