新・視点
「背景」へのフォーカスを変幻自在に操る
長井 聡里
1
1株式会社JUMOKU
pp.282-283
発行日 2021年5月15日
Published Date 2021/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401209614
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「背景」へのこだわり
筆者が医者を目指したきっかけに,「病名がつかなければ,不調は相手にされない」という病院受診経験がある.国民皆保険制度の限界として,今ならそれも大人の事情と思うのだろうが,医療は病気を扱えても健康は扱えないのかとしっくりこない思いが,何かに駆り立ててきた.不調を訴える「背景」をちゃんとみれる医者になりたいと,へき地医療の自治医科大学か,まだ当時は卒業生もいなかった未知なる産業医科大学かと迷い,後者に進学した.当時は男女雇用機会均等法制定間もない頃で,働く女性の健康管理に興味を持ち,臨床は産婦人科を選んだ.その後,出産を機に産業医学へ戻り,製造業の工場等もある大企業本社の専属産業医で専門性を磨き,母校の産業医実務研修センター講師を経て,個人の嘱託産業医活動から多職種連携による産業保健サービスを提供する会社を設立し,現在に至っている.対象とする「背景」は職域・職場・働く個人の生活環境である.公衆衛生分野に進んだという明確な意識はなかったが,あらためて今日,「病気を治して健康を取り戻す医者」ではなく,「病気にさせない,健康を保持増進,元気にさせる医者」なのだと自覚した.
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