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小児科医であった父の影響が少なからずあって,私が同じ道に進み,その後,公衆衛生に従事するようになって今年で15年になる.もともとは基礎医学,特に免疫学を研究したくて医学の門をたたいた.研修医時代に白血病や腫瘍を持つ多くの子どもたちと接したが,彼らがつらく厳しい治療に耐え,ようやく退院できたにもかかわらず,流行する病気,特にワクチンで予防できる疾患である水痘や麻疹などに罹患し,重症化して病院に戻ってくる姿を見て,強い憤りと悔しさを覚えた.研修病院の先輩で,当時University of California, San Diego小児科のスタッフだった齋藤昭彦先生(現新潟大学医学部小児科教授)の「米国ではそんなこと決してないよ」という一言で,同地への留学を決めた.私が知りたかったのは,米国ではどのように予防接種が活用されているのか? 化学治療後の免疫力の弱い子どもたちがどのように守られているのか? ということであったので,留学といっても大学での研究ではなく,地元の保健所の予防接種課で活動をさせていただいた.
サンディエゴ市は人口300万人を超えるカリフォルニア州南端の観光都市で,世界中から人々が訪れ,また,国境を接するメキシコからの移民も多い.そのため,各国の異なった予防接種制度の下でワクチン接種を受けた人々が混在する.そのような場所で麻疹や水痘といった病気が,高い予防接種率の達成と維持でコントロールされていた.カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の小児科教授であるMark Sawyer先生を中心にして,保健所においてしっかりとしたサーベイランスが構築・実施されており,さらに,その結果を正しく評価し,必要な場合は介入を行い,その介入を再度サーベイランスで評価する,といったエビデンスに基づいた政策の実施と評価が行われていた.それまで疫学(epidemiology)を全く知らなかった私にとって,当たり前のように行われている目の前の光景が新鮮で,このプロセスをもっと正しく理解したい,身に付けたいと思った.その後,アトランタエモリー大学公衆衛生大学院(Emory University Rollins School of Public Health)で公衆衛生修士(MPH)を取得し,さらに米国疾病予防管理センター(CDC)でEpidemiology Intelligence Service(EIS)のトレーニングを受けた.
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