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はじめに
現在の日本では高齢化に伴って重度介護者,認知症の高齢者が増えており,介護問題は高齢者の生活に関わる大きな不安要因となっている.介護保険制度の施行によって介護サービスへの民間業者の参入は急増しており,介護サービスの供給は充実してきたものの1),一方で,サービスの質の保障が重要な課題となってきている.
介護サービスの質の確保のための取り組みとしては,これまでも政府を中心に「介護サービスの情報公表」「福祉サービスの第三者評価」などさまざまな取り組みが行われているが,以下のような問題も指摘されている.
①全ての介護サービス事業所の介護サービス情報を公表しているものの,80.8%の介護サービス利用者および家族はそれらを利用したことがなく,実効性が非常に低い2).
②評価内容は人員配置などのストラクチャー中心であり,利用者のアウトカム評価(利用したサービスにより,どのような変化が生じたかを評価する)はほとんどない.
③福祉サービスの第三者評価の受審費用が高く,また,頻繁に行われるため受審率が非常に低い3).
上記のような問題の解決の一助となるのが,ビッグデータ(big data)を活用したヘルスサービスリサーチ(health services research:HSR)である.HSRは,人々に健康・幸福をもたらす技術を,必要な人に,いかに効果的に届けるかを追求する,ヘルスケアを中心とした包括的学問分野である.前述のとおり,介護サービスの質の確保が重大な政策課題となっているため,質の高い介護の実現に資するHSRの実践は喫緊の課題となっている.
そもそも,ビッグデータとは何であり,また,なぜ,その利活用が期待されているのであろうか.現在広く浸透しているビッグデータの定義は,Laney4)によって提唱された,多様で膨大なデータを高頻度で高速に処理することである.ビッグデータの意義は,①ICT(information and communication technology)の進展に伴って,多種多量なデータの生成・収集・蓄積などがリアルタイムで行うことを可能とする,②そのようなデータを分析することで未来の予測や異変の察知などを行い,利用者個々のニーズに即したサービスを提供し,業務運営の効率化や新産業の創出などを可能とする点にある5).介護領域で最近注目を浴びているのが介護のビッグデータである「介護保険総合データベース」(以下,介護DB)である6).介護DBは介護保険制度の運営業務において発生する記録であり,全ての利用者が対象となる.また,それぞれの事業所にとってもデータ収集への負担がないメリットがある.
本稿では,海外やわが国におけるビッグデータを活用した介護サービスの質の評価への取り組みと,今後の課題を述べる.
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