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はじめに—アルコール依存症の回復支援の基本的理解
アルコールや薬物の依存症とは,ヒトが自ら求めて物質を摂取しているうちに,自らの意志では摂取量や摂取行為を適正に制御できなくなった病的状態である.この病態には,強烈な摂取欲求が出現しやすいという特徴がある.ヒトのアルコール依存症でいえば,酒を飲むことにおいて,その“飲酒量や飲酒機会・飲酒行動をコントロールできない”(loss of control)ことと,些細な契機で“強烈な飲酒欲求”(craving)が反復出現することが病態の中核症状である.これはアルコール・薬物の継続的使用が招いた病的変化と考えられており,依存は,依存性のある薬物を使用したオペラント条件付けの動物実験でも行動薬理学的に実証されてきた1).ICD(International Classification of Diseases)分類にしろ,DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)分類にしろ,依存症の診断基準の諸項目は,その時代の理論の趨勢によって変化するが,依存症の病態における中核的病理は本質的に変わらない.
アルコールの急性中毒は飲酒後の短時間でも成立し得るが,アルコール依存症の病理は年単位で大量・多量の飲酒を継続しないと成立しない.依存が成立するほどにまで飲み続けてきたのは,エチルアルコールの薬理効果,すなわち“酔い”が本人の感情状態や生活遂行に陽性の報酬効果を持っていたからである.アルコール依存症者は誰しも酒との“蜜月期間”を持っており,しばしば「酒を取り上げたら,自分の人生には何も残らない」とか「酒が唯一の友」などという.彼・彼女らの人生の遂行に必要不可欠の存在となったアルコールから真に長期に離脱するには,酔いを必要とした自分の人生の振り返り,内省,自己洞察などが必要になる.それゆえ,回復のためには,それらが得られる心理療法的なプロセスの提供が不可欠である.
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