特集 老人問題と公衆衛生
高齢者の市民的自立とコミュニティ
倉沢 進
1
Susumu KURASAWA
1
1東京都立大学人文学部
pp.611-614
発行日 1986年9月15日
Published Date 1986/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207331
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■市民的自立と生活上の自立
これまで人間の自立が問題とされてきたのは,一般に女性の自立という文脈においてであった,そこでは自立の二つの側面として,経済的自立と精神的自立が区別されてきた.女性は経済的に男性に依存しているために,すなわち経済的に自立していないために,精神的自立がなかなか達成されない.だから目標である精神的自立の達成の早道は,まず経済的自立を実現することが何よりも大切である,というものであった.物事はこのての女性解放論者の考えるような単純なものではあるまい.ここでは与えられた課題である市民的自立と,人間の自立のもう一つの側面である生活上の自立という概念を追加して考えておこう.
生活上の自立とは,寝食や身の回りのことを自分で処理できるかの問題である.女性解放論の文脈では,男性が生活上自立していないために,女性の自立が阻まれていることが問題とされてきた.高齢者の生活上の自立を問題とするときは,加齢に伴う身体能力の低下という,女性解放論の文脈では登場しなかった要因が加わるので,問題は複雑となる.壮年期においても生活上の自立が必ずしも達成されていなかった男性と,それが十二分に達成されていた女性の場合,あるいは年齢による身体能力の低下の度合の差異,あるいはさまざまな個人差等があって,いちがいには議論できない,生活上の自立の程度は非常にまちまちであるわけである.
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