衛生公衆衛生学史こぼれ話
12.コレラさわぎ
北 博正
1,2
1東京都環境科学研究所
2東京医科歯科大学
pp.628
発行日 1985年9月15日
Published Date 1985/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207115
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前記のようにヨーロッパは誠に不潔で,非健康的であった.別天師の時代にはしばしばコレラが流行し,多数の犠牲者を出したが,対策も十分に立てることはできなかった.前出のハイネの"パリ通信"にも,パリの第1回の流行時に,病毒をあちこちにまきちらす者がいるとて,怪しい者を袋だたきにして殺し,街中をひきずりまわすのを見たと記している.丁度,関東大震災のとき,井戸に毒物を投入したということで,多くの朝鮮人が虐殺されたのと同様に,パニック状態になると,このようなことも平気で行われる.
衛生学者である別天師がこれに挑戦するのは当然で,むしろ義務ともいえよう.彼の立場は,環境の不潔,とくに土壌(地下水も)の汚染に注目し,精力的に各地の土壌汚染とコレラの発生数との関係を,今日の言葉でいえば"疫学的"に調べた.調査の対象になった地区は,広く国外にまで及んでいる.その結果,彼の出した結論は,汚染された土壌中の空気が地表に放散される際,瘴気(ミアスマMiasma)を含有しており,これを人間が吸入して発病する.従って土壌を清潔に保つことが,コレラ予防の第一歩であると強調した.これはマラリアに関して,蚊が媒介するということが知られる以前に,ミアスマ説が唱えられたのとよく似ている.
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